プリプレス技術とワークフローの追求/髙瀬勝己

プリプレスとカラーマネジメント





プリプレスにおけるカラーマネジメントに関連したトラブルは、プロファイルが埋め込まれていない事が原因によるものとプロファイルが埋め込まれている事が原因によるものがあります。これらのトラブルはカラーマネジメントに対する基本的な考えと挙動から得られる理解があれば防げます。経験のない知識はそれが間違っていたとしても気がつかないものです。
カラーマネジメントポリシーを決定するカラー設定
作業用スペースと異なるプロファイルの扱いをどうするのかを決定する基本となる設定です。アプリケーション間で共通の設定をBridgeで同期して統一する事で一貫したカラー設定を使用できます。カラー設定を作成するにはグレーやスポットを扱えるPhotoshopで行うのが良いでしょう。自社のカラー設定を基に説明します。
Photoshopのカラー設定

Illustratorのカラー設定

InDesignのカラー設定

作業用スペース
RGB:Adobe RGB (1998)
CMYK:Japan Color 2011 Coated
グレー:Dot Gain 15%
スポット:Dot Gain 15%
カラーマネジメントポリシー
RGB:埋め込まれたプロファイルを保持
CMYK:オフ
グレー:オフ
プロファイルの不一致:開くときに確認/ON ペーストするときに確認/ON
埋め込みプロファイルなし:開くときに確認/ON
作業用スペースはごく一般的な設定です。カラーマネジメントポリシーはRGBに対して正しい色変換を行うためには正しい色で表示しなければならないので埋め込まれたプロファイルを保持します。CMYKとグレーに対してオフにしているのはカラーマネジメントを拒否しているのではなく、数値はそのままに作業用スペースによってどのような色相や濃度となるのかをシミュレーションする(変換ではなく指定)という事です。
また、プロファイルの不一致については確認のためにダイアログを表示させています。これはトラブルを防ぐだけでなく有効的な活用にも繋がる重要なものです。
埋め込まれたプロファイルの不一致に対する挙動
RGB、CMYK、グレースケール(Photoshopのみ)に対して機能します。カラーマネジメントポリシーに従ってデフォルトの選択が決定されます。OKを押す事で正しく処理されます。これはすべてのアプリケーションにおいて共通です。この選択に変更が必要な場合、それが特別な意図があるのでなければカラーマネジメントポリシーが間違っています。
RGB

CMYK

グレースケール

作業用スペースと異なる埋め込みプロファイルを扱う場合
基本的にカラーマネジメントポリシーに従ったデフォルトの選択のままで正しいのですが、印刷条件の異なるCMYK画像の場合は先方が見ている色に合わせる処理が求められる事もあり、埋め込まれたプロファイルで表示できるのは色見本として利用できる大きなメリットです。プロファイル変換はその条件でどのような変化をするのかという知識や色調修正の技術は必要ありません。可能な限り色の変化を抑えた結果を示すために数値を変更して調整します。
見ている画像の色を正しく伝えるという目的においてプロファイルの埋め込みは言葉による伝達よりも合理的です。例えば、広演色プロセスインキのカレイドで印刷する画像にプロファイルを埋め込んでおけば誤って異なる作業用スペースで開いてしまうミスを防げるので色調修正もシミュレーションしながら行えます。
オリジナルデータ(Japan Color 2001 Uncoated埋め込み)

埋め込まれたプロファイルを破棄して作業用スペースのJapan Color 2011 Coatedでシミュレーション
CMYKの数値はそのままですが、上質紙による色の沈みといった変化は加味されない色再現となります。





埋め込まれたプロファイルで開いてから作業用スペースのJapan Color 2011 Coatedで変換
ターゲットに合わせて自動的にCMYKの数値が調整されますので、色の再現は可能な限り維持されます。





印刷結果の相違はプロファイルの精度にもよりますが、Japan Colorの許容範囲が⊿E±5以内である事を考えると過度の期待はできません。実際に刷ってみないとわからないのが印刷です。それでも何もない状態から調整するよりはよほど合理的な方法です。
埋め込まれたカレイドのプロファイルを使用してシミュレーション

作業用スペースのJapan Color 2011 Coatedでシミュレーション

カレイドで印刷すると赤くなるとよく言われますが、この結果からもそれは正しい事がわかります。Japan Color 2011 Coatedでは藍グレーにしないとカレイドでニュートラルグレーになりません。
レンダリングインテントの重要性
プロファイル変換において、品質を左右するのはレンダリングインテントです。日本ではカラー設定で「知覚的」を選択するのが一般的であり、メニューからイメージ→モードでの変換はこのカラー設定に従います。しかし、「知覚的」によるCMYK to RGB(グレースケール、Labも)の変換ではシャドウが潰れます。Photoshopは変換する際に内部的にLabを介すため、既に階調が変化している状態から変換されます。これを防ぐためには、一度「相対的」によるCMYK to RGBの変換をしてからRGB to CMYKの変換をする事で正しいCMYK to CMYKの変換が行えます。
CMYK→RGB(知覚的)
CMYK→RGB(相対的)
プロファイルが埋め込まれていないRGB画像
この画像をどう扱うかの判断を求められますが、間違ったプロファイルを指定すれば本来の色とは異なって表示されます。その状態でCMYK変換すればその色で印刷される事を意味します。従って、元のプロファイルの予測が必要となりますがAdobe RGBを使用するような人はプロやハイアマチュアであり、色を正しく伝えるためにプロファイルの重要性も理解しているはずですから埋め込みを忘れるような事はまずありません。プロファイルの重要性を理解していない人が使用している一般的に普及しているものとなるとsRGBの可能性(最近はDisplay P3も普及してきています)が高くなります。あくまでも予測であるため、指定後は人間の目による確認も必要です。
そのままにする(カラーマネジメントなし)と作業用RGBを指定で開いた結果は同じです。違いはプロファイルを指定しているかどうかで保存時の埋め込みチェックに反映します。この処理方法の指定は以降も維持されます。注意しなければいけないのはスマートオブジェクト内にプロファイルなしの画像がある場合、トリミングをするだけでも作業用RGBが適用されるので本来のプロファイルと異なれば色が変わってしまいます。開く際にのみプロファイルなしの警告は表示されるので気づかずに変化してしまいます。

sRGBを指定して開いた画像

Adobe RGBを指定して開いた画像

レイアウトソフトでのプロファイルによる二重変換
Illustratorに作業用スペース(CMYK)と異なる埋め込みプロファイルを使用したCMYK画像を配置した場合、作業用スペースを通して内部的に変換された状態で表示されます。また、グレースケールやスポットカラーの作業用スペースには対応していないのでPhotoshopでの表示とは異なります。あくまでも作業用スペースのCMYKプロファイルによって管理されます。ドキュメントを保存する際にCMYKプロファイルを埋め込んで別のドキュメントに配置しても作業用スペースが異なれば同様で、さらにオーバープリントも反映されなくなります。
これらの理由からレイアウトソフトに配置する際のカラーマネジメントポリシーはCMYKをオフにして作業用スペースのみでカラーマネジメントを行わなければなりません。
カラー設定に従って以下の埋め込まれたプロファイルの不一致に対するダイアログが表示されますがそのままOKする事でこれらのトラブルを防げます。カラーマネジメントをしないとありますが、これは間違いであり作業用スペースによってカラーマネジメントはされます。また、CMYKのプロファイルが埋め込まれた画像をすべて開いて破棄して再保存するのは時間の無駄であり、その後の色調修正を考慮して意図的に埋め込んでいる(例:カレイド)場合は正しいプロファイルで開けなくなってしまいます。これらにも柔軟に対応できるのがカラーマネジメントです。

例としてIllustratorで同じ色のオブジェクトを3つ並べます。Illustratorで作成したオブジェクト(左)、画像に変換して作業用スペース(CMYK)と異なるプロファイルを埋め込んだものを配置(中央)、左のオブジェクトを作業用スペース(CMYK)と異なるプロファイルを埋め込んでai形式で保存して配置(右)したものが以下です。中央と右は異なるプロファイルを埋め込んでいます。
作業用スペース(CMYK)による変換で数値と色が変更されているため、分版表示の結果も正しくありません。Illustratorのドキュメントを配置したものはオーバープリントも反映されません。
アプリケーションからのプリントアウトはこの状態で出力されるため、CPSI(Configurable PostScript Interpreter)やAPPE(Adobe PDF Print Engine)を使用した正常な印刷結果と異なりますのでプルーフとしては使えません。
Illustratorでの表示

Illustrator上のオブジェクト
配置画像に出力インテントと異なるCMYKプロファイルを埋め込み
配置aiに出力インテントと異なるCMYKプロファイルを埋め込み

C版

Y版

M版

K版
レイアウトソフト上でのグレースケールの表示
IllustratorもInDesignもカラー設定の作業用スペースはRGBとCMYKのみに対応しています。そのため、グレースケールの表示はPhotoshopと異なります。これは出力インテントを含むPDF/Xでも同様です。
Photoshop
Dot Gain15%で表示

Illustrator、InDesign
作業用のCMYKカラースペースで表示

一歩進んだInDesignのカラーマネジメント
InDesignのカラーマネジメントはIllustratorの挙動と異なります。カラーマネジメントポリシーがプロファイルの指定に反映される仕様になっています。これによりプロファイルの不一致、埋め込みプロファイルなしの確認ダイアログを表示しません。常に確認ダイアログが表示されて鬱陶しい Illustrator(自社ではスクリプトで一時的に表示させない対応を可能にしています。)よりも進んでいると言えます。カラー設定のカラーマネジメントポリシーでCMYKをオフにしていれば、Illustratorで起こり得るトラブルとは無縁です。
また、「処分して現在の作業用スペースを使用」の方が、「埋め込まれたプロファイルを破棄(カラーマネジメントをしない)」のような誤解を与えません。ただ日本語としておかしいので、「破棄して作業用スペースでカラーマネジメントを行う。」が適切です。これはアプリケーション間で統一すべきです。
InDesignではドキュメントのカラーマネジメントポリシー、プロファイルが自動的に保存されます。


InDesignで起きる不具合
透明を含んだファイルを配置して作業用スペース(CMYK)と出力インテントが異なるPDF/X-4を書き出すと、デバイスに依存しない描画カラースペース(ICCBasedCMYK)に変換されたオブジェクトはAcrobatの出力プレビューを表示しない状態では作業用スペースの色となり、オーバープリントも反映しません。出力プレビューを表示させた時とまったく別の表示となり混乱の元となります。この不具合はIllustratorでは起きません。
そして、カラー設定は問題がなくても内部的に異なるケースもあり、この場合は一度他のカラー設定にしてからもう一度使用しているカラー設定に戻す事で正常になります。知らないうちにこの状態でPDFを書き出している事は珍しくありません。
出力プレビュー非表示

出力プレビュー表示

このようなPDFに対して、プリフライトプロファイル「印刷トラブルを防ぐためのプリフライト Pro」はエラーを表示します。

また、不具合ではありませんが、グレースケール画像はカラースペースがDeviceGrayであり、PhotoshopでモードをCMYKカラーにして開くと4Cブラックに変換されます。ページ内に透明オブジェクトが存在する場合はDeviceNに変換してK1Cを保持します。この挙動については通常のプレビューで透明オブジェクトの有無でグレースケール画像の濃度が変化する事でわかります。
出力インテントを持つPDF/X-4での挙動について
実際の印刷に使用するPDFで考察します。出力インテントを持つPDF/X-4(X-1aは書き出しの時点でオブジェクトを二重変換して書き換えます。)でも注意が必要です。先に紹介したIllustratorからPDF/X-4を書き出してもIllustratorでの表示と変わりません。しかし、RIPでNormalized PDFであるOutlinePDF Advanceに変換すると結果は変わります。
Illustratorから書き出したPDF/X-4

Illustrator上のオブジェクト
配置画像に出力インテントと異なるCMYKプロファイルを埋め込み
配置aiに出力インテントと異なるCMYKプロファイルを埋め込み

C版

Y版

M版

K版