top of page

周波数分離を使った
アーティスト向け
レタッチ

髙瀬勝己/Amazon著者ページ

https://www.amazon.co.jp/-/e/B06ZZ648LJ

beauty_53_rika_周波数分離_修正後
beauty_53_rika_周波数分離_修正前
gravure_211_mika_周波数分離_修正後
gravure_211_mika_周波数分離_修正前
outdoor_108_mikarika_周波数分離_修正後
outdoor_108_mikarika_周波数分離_修正前
appliances_7_mika_周波数分離_修正後
appliances_7_mika_周波数分離_修正前
appliances_7_mika_周波数分離_マスク
gravure_224_mikarika_修正後
gravure_224_mikarika_修正前
gravure_224_mikarika_マスク

CD、Blu-ray、DVDで使われるアーティストのレタッチに求められるのは、雑誌のグラビアで見かけるぼかしてツルツルにした人形のような肌でありません。肌の表情を維持する事が大事でアーティストのレタッチは修正前後を重ねて変化の確認となるので誤魔化しは通用しません。CDのジャケ写で使用した画像をポスターで使う事も普通なので手を抜けば痛い目を見るのは自分です。また、誰しもコンプレックスに感じる部分はありますが、それをレタッチする人間が勝手に変えてしまっては失礼であり、それまで本人が感じていなかった部分を否定する行為にもなりかねません。目指すべきはあたかも最初からそうであったかのような自然な仕上がりです。アイドルグループのように人数が多い仕事では、すべてを一人で処理するには納期に間に合わせるため計算された効率化が必要であり、要求される厳しい品質を保つために数値による調整が可能な非破壊編集を基とした独自の技術を完成させています。

以前執筆した書籍ではハイパスを使っていましたが、現在は周波数分離(Frequency Separation)を使っています。どちらもテクスチャ成分と色成分の分離が目的であり、求める結果は分離前後で変わらない状態です。何故この処理を行うかについては肌をツルツルにするためではありません。その逆でどちらかを変化させずに精度の高いレタッチを行うためです。ハイパスでは鏡面ハイライトに大きな濁りが入ります。これがハイパスの弱点でありマスクによる対処が必要でした。周波数分離ではこの問題が起きませんのでマスク作成と確認の時間が不要になります。また、ハイパスではテクスチャ成分の不透明度を50%にするため、編集のしにくさがありましたが、周波数分離は不透明度を変えないのでその点も解消されます。ただし、周波数分離のテクスチャ成分は8bitと16bitで設定が異なります。

ハイパスでは分離した際に鏡面ハイライトが大きく濁る。

ハイパスと周波数分離_周波数分離.jpg

周波数分離では分離した際に鏡面ハイライトの濁りは起きない。

周波数分離_レイヤー構造.jpg

周波数分離アクションを実行後のレイヤー構造

テクスチャ成分と色成分でグループ化してまとめる事でそれぞれを表示と非表示にして状態の把握をしやすくしています。

レタッチのレイヤー構造は、他の人間が引き継ぐ際にも一目でわかるように、それぞれのレイヤーが何を意味しているのか簡潔な表記になっていないと仕事に支障が出てしまいます。

​プロであればあるほど、無駄なレイヤーは省きます。そうする事で修正すべきレイヤーを見つけやすくし効率化を図っています。

周波数分離レタッチの作例

テクスチャ成分と色成分に分離する目的は、どちらか一方に影響を与えずレタッチする必要があるからであり、その必要がなければわざわざ分離する理由はありません。よく目にする肌を綺麗にする技術という認識は誤りです。周波数分離は構造であり、それだけで誰もがプロと同じレタッチができるわけではありません。分離してからの技術が問われます。​勘違いしてはいけないのは、アーティストは人間であり人形のような肌の質感はNGです。質感を無くすのはあまりにも簡単であり、共同で作品を制作するにあたり手を抜くようなレタッチは失礼です。

クリエイティブワークは、作品で納得させられなければ意味がありません。どんなに言葉を並べて説明したところで結果が伴わなければ恥ずかしいだけです。インターネットやSNSで周波数分離のレタッチについて多く紹介されていますが、分離はアクションでできてしまいます。その後のレタッチを見て自分にとって有意義なのか無意義なのか判断すべきです。自分が求めている品質とかけ離れていれば、それは時間の無駄です。

周波数分離をする事で可能な肌の表現
その他のレタッチ技術
肌のレタッチ(ペイント).jpg

肌のレタッチ(ペイント)

コピースタンプ、修復ブラシ、​ブラシといったツールを使ったレタッチ専用。基本となる構造。

粒子合わせ見本_前.jpg

鼻の周りをブラシツールを使って処理。塗りを重ねる処理ではどうしても肌の質感が失われていき平らになり違和感が残ってしまう。いわゆるノイズ感がない状態の肌となりクレームとなる。

粒子合わせ見本_後.jpg

粒子合わせによるノイズが適用された状態。処理した部分が周囲と質感が馴染む事によって自然な仕上がりに。ブラシツール用レイヤーに対して処理した部分にリアルタイムに適用される。

肌の処理(アホ毛処理).jpg

肌のレタッチ(アホ毛処理)

厄介な処理で時間もかかるアホ毛取りもマスクを解除していくだけで可能に。粒子合わせも適用される。

アホ毛処理_前.jpg

微妙なグラデーションもあり、スタンプ、修復ブラシツールでは階調差が段差となり馴染まない事も多く、かと言って、髪の毛との境界をぼかしては不自然になるので処理はなかなか難しい。

アホ毛処理_後.jpg

マスクで隠している部分をブラシで解除していくだけでアホ毛が消える。背景との粒子が合わない部分は、設定を変えた粒子合わせを併用する事で対応。ここからの微調整は「肌のレタッチ(ペイント)」を使う。

アクション(チャンネル表示)

​個々、あるいはすべての開いている画像に対してCMYK各チャンネル表示に切り替えて確認。チャンネルでの変化を見ながら繊細な色調修正も行える。

アクション(タブにまとめてすべてを一致)

統合した画像を重ねての比較と同じ事をレイヤー構造はそのままで行えるアクション。最前面の画像の拡大縮小率、位置に合わせて処理される。

音楽関係の仕事を扱う製版、印刷会社にとって肌のレタッチを一から行うケースはあまり多くありません。アーティストの画像はレタッチ専門の会社が行い印刷物を制作する段階で引き継ぐのが一般的です。むしろ、印刷した際の色を色見本に合わせる作業がほとんどを占めます。肌のレタッチだけでなく色見本合わせもできなければならないのが製版、印刷会社です。紙、加工により色は大きく変わるのはもちろん、特色を混ぜて表現するものもありモニタの色通りにはならない色校正の結果に対して色を合わせ込む技術が求められます。モニタ、あるいはインクジェットで出力された色見本は未完成であり、印刷物という形として完成させるのが製版、印刷の技術です。色校正の結果をモニタ上でシミュレートしますが、これができないと色見本合わせはできません。そして、数値から補正後をイメージできる能力も必要です。アイドルグループのCDのようにいくつもの形態があると数十点の画像を扱いますが、同じ撮影条件であれば同じトーンカーブを流用して色見本合わせをする事になります。マスクを作成していては納期に間に合いません。マスクを使うのは部分的な調整を行う再校以降です。肌はCMY各1〜2%の調整が肝となるので紙幣の色の違いを見分けられるような目が必要です。そして、階調の破綻によるトーンジャンプや色溜まりを嫌うためトーンカーブは繊細な形状となります。色校正を刷るにはコストと時間もかかり何度もやり直していては信用を失います。色が合っている合っていないという判断は誰にでもできるため、責任が重くのしかかる仕事であり感覚と技術を常に磨くしかありません。CMYKの世界は変化を数値で把握する必要があり、それを説明できる管理能力が求められます。

​画像はピクセルの集合体です。一つ一つの大きさは同じであり、異なるのは色のみ。どんなに無理だと思える処理も一つ一つのピクセルごとに進めていけば、いつかは終わりが見えてくる。そう考えれば、肌のレタッチも色調修正も不可能なものはないはずです。それが確信に変われば怖いものはありません。そのためには日々の訓練が必要です。

トップアーティストの場合、レタッチャーからはレイヤー構造のRGBで入稿される事も多く、CMYK変換で統合してしまうとその後の修正やレイヤー差し替えの対応ができず一からやり直しという最悪の事態も起こり得ます。製版、印刷会社ではレタッチはレイヤー構造を利用できるRGBで行い、色調修正はCMYKで印刷結果をシミュレーションしながら数値の変化を管理して行うのが理想であり、これを実現するために私は「RGB In CMYK」と呼ぶ技法を使っています。

スマートオブジェクトは内部にカラーモードを維持する性質を利用(「ファイル検版」の2Cの重ね表示も)して、そのスマートオブジェクトに対してCMYK変換を行います。一つのファイルにRGBとCMYKのカラーモードが共存している状態となり、RGBのスマートオブジェクトはCMYKのプロファイルを通して表示されます。
​※マッチング方法は知覚的以外使えません。統合して変換した場合と差異が生じます。

スマートオブジェクト外のカラーモードはCMYK
RGB-In-CMYK_CMYK.jpg
スマートオブジェクト内のカラーモードはRGB
RGB-In-CMYK_RGB.jpg

​ターゲットとなるCMYKでシミュレーションしながら色調修正を行える。スマートオブジェクト内のRGBでの修正も反映する。

RGB-In-CMYK_CMYK_パネル.jpg
RGB-In-CMYK_RGB_パネル.jpg

レイヤー構造を維持したままレタッチを行えるので、部分的な差し替えにも対応可能。また、レイヤーや色域を利用して作成したマスクをCMYK上でも利用できる。

これによりRGBにある階調をCMYKで利用するといった事も可能です。しかし、カラーマネジメントを理解していないとRGBを修正した際に再度プロファイル変換が行われるので変更していない部分の色までCMYKで変わってしまう。また、そのままスマートオブジェクトに変換してしまうとトリミングが変化して選択範囲を利用したマスクを同じ位置に適用できなくなるといったトラブルも起きます。結果として取り返しのつかない事態を招く恐れがあります。原因の解明と対策ができてこそ使える技法であり、誰に対しても勧められるものではありません。独自の技法については使用した人間がすべての責任を負わなければなりません。

レタッチにおける髪の毛の高精度切り抜き技術の応用から私が「部分GCR」と呼ぶ印刷の安定性を目指した技術が実現できたように、画像処理の側からワークフローを変えていく事も可能です。そのためには後工程に対する知識も必要です。

印刷に最適化した部分GCRの実現を可能とした髪の毛の高精度切り抜き

多くのアーティストを担当していると、休業、卒業、あるいは逝去という出来事と向き合うのも珍しくはありません。その時は突然やって来るので、最後となった作品に対して自分は持てる力のすべてを出し切れたのかと自問自答を繰り返します。もっと品質を上げられた余地はないのかと後悔をしないためには自分自身が納得できるまで技術を磨くしかありません。良い作品を創りたいという想いはアーティストと変わりありません。

作例(大手レーベルにレタッチ見本として提出)

モデル/ゆか

© 2021 Katsumi Takase
bottom of page